朝は、ちゃんとやってきます。
前日の大敗がなかったことのように、マカオの朝は明るく、容赦がありません。

スターワールドホテルのレストランで、イングリッシュブレックファーストを取りました。
どれも美味しいはずなのに、胃の奥に重たく残ります。
――今日も、勝負する。
そう決めていなければ、この朝食はただの贅沢だったはずです。

本日も引き続き、スターワールドで勝負続行。
場所を変える気にもなれませんでした。
前日の大敗の傷は、まったく癒えていない。
むしろ、静かに鈍痛として残っています。
ETGの画面を前に、勝負するテーブルを替えながら勝負を続けます。
少し勝っては戻され、戻したと思えばまた削られる。
負けを取り返すというより、 これ以上負けたくないという気持ちだけが前に出ていました。
気づけば、金額ばかりを見つめていて、 勝負をしている実感すら薄れていきます。

昼を過ぎたあたりから、集中力が明らかに落ちてきました。
数字を追う目が鈍り、判断が雑になっていくのが、自分でもわかります。
ETGは、疲れている人間に容赦がありません。
感情が動かないぶん、気づかないうちに時間とお金だけが削られていきます。
これは危ない。
そう思い、珍しく自分を止めて、部屋に戻ることにしました。
負けて席を立つのではなく、疲れて離れる。
それだけでも、少し成長したような気がしました。
部屋に置いてあったフルーツを一口かじります。
果物の甘さが、妙に現実的でした。
――ああ、自分は今、かなり疲れている。
ようやく、その当たり前の事実を認められた気がします。
少し休んだあと、再びカジノへ。
結局、戻ってしまうのがカジノ旅です。
人の気配を感じない画面相手の勝負は、感情の起伏が少なく、そのぶん時間の感覚を奪っていきます。
流れは、やはり大きく変わらない。
じわじわと削られ、たまに戻し、また削られる。
夜遅くまで粘って、タイムアップ。
結果は、ちょい負け。
夜遅くまで粘って、タイムアップ。
結果は、ちょい負け。
致命傷ではないけれど、希望が見える数字でもない。
この時点で、はっきりとわかっていました。
――今回の旅の負けを、すべて取り返すのは難しい。
それでも、不思議と心は落ち着いていました。
昨日までの焦りや苛立ちは、少し影を潜めています。
負けを受け入れ始めたのかもしれません。
あるいは、ようやく現実を直視できるようになっただけなのか。
カジノでは、 「まだ時間がある」
「明日がある」
そんな言葉が、何度も頭をよぎります。
でも本当は、わかっている。
明日が最後だということを。
こうして、マカオ最終日前夜。
勝ち負けよりも、 この旅で何を持ち帰るのかを考える時間が、静かに始まりました。
つづく